信頼をつくる「ガイドの軸」を育てる3つの要素

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忘れられない「2対8の法則」

ベテランの通訳ガイドから教わるとき、ほぼ必ず言われることがあります。

「ガイドが話すのは、全体の2割でいい」

ゲストとガイドの会話の割合は、2対8。話す量ではなく、聞く量でツアーの質が決まる――そう教わりました。

これは、カウンセリングの世界とまったく同じ考え方です。

ガイドはカウンセラーである

カウンセラーは「傾聴」という技法で、相手がとにかく話しやすい空気をつくります。効果的な質問とは、相手が答えやすく、心理的に自己開示しやすい問いのことです。

私は20代の頃、ボランティアでカウンセラーをしていました。もともと心理学に関心があったことと、行政の市民対応にその知識を活かしたいと思ったことがきっかけで、学びと実践を5年ほど積み重ねました。月に30人ほどの方と向き合う日々を5年続けると、人にはいくつかのタイプがあることが見えてきます。

そして、リピートで会ってくださる方が増えてきた頃、あることに気づきました。相手の心をつかむポイント――「共感ポイント」が、確かに存在するということです。

共感には自己開示が要る。だから、誘導は禁物

共感ポイントをつかむには、こちらにもある程度の自己開示が必要です。自分を開くからこそ、相手も話しやすくなる。

一方で、話を誘導しようとした瞬間、相手は心を閉ざします。しかも、それは一度きりの失敗では済みません。繊細な方ほど、一度閉じた扉の前には鉄格子がかかり、二度と開かないのです。その関係は、もう築き直せません。

この感覚は、ツアーゲストとのコミュニケーションにもそのまま活きています。

1年目は知識に偏っていた

ガイドを始めた1年目、私はどうしても知識に偏りがちでした。歴史や文化の情報を、正確に、たくさん伝えようとしていたのです。

けれど2年目、3年目と経験と回数を重ねるうちに、目の前のゲストが本当に求めていることが、瞬時にわかるようになってきました。

その変化を支えていたのは、次の一つの式だったと思います。

ガイドの軸 = 知識 × 経験 × 個性

知識 × 経験 × 個性。これが、ガイドの「軸」です。

  • 知識は、本やメディア、研修、先輩ガイド、地元の方々の話から太くしていくもの。
  • 経験は、とにかく数をこなすこと。できるだけ多様なタイプのゲストに出会うこと。
  • 個性は、ガイド自身の生きざまそのものです。

私自身は、子育ての経験や、キャリアとの両立に悩んだ時期の話が、ゲストとの会話でよく話題になります。もちろん、それだけが正解ではありません。専門家として自立した女性としての歩みも、世界を渡り歩いてきた男性のキャリアも、同じように立派な「個性」です。

子育てが長かったこと、部活動に打ち込んだ経験、和の文化に詳しくなくても、ただ日本人として、ありのままの自分であること――そのすべてが、ガイドとしての「ネタ」であり、財産になります。

軸があるからこそ、まったく違う世界の人の話がわかる

この軸があるからこそ、ガイドは人の話に本当の意味で共感できます。

自分とはまったくかけ離れた世界に生きるゲストであっても、「これが私だ」という軸さえあれば、その方の話が理解できるのです。子育ての話であれば、「ああ、自分にもこんなことで悩んだ時期があった」。忙しさで自分を見失いそうになったこと。心を落ち着けるための、静かな場所が必要だったこと。

軸を通して見ると、相手が本当に望んでいるものが見えてきます。そして、その方の「いいところ」も自然と見えてくるのです。

どんなゲストにも、必ずいいポイントがあります。そのポイントを、自分の中であらかじめ言葉にしておくこと。これは、カウンセラー時代から変わらず大切にしていることです――何があっても、相手のいいところを見つける。

軸は、ゲストとの適切な距離もつくる

そしてもう一つ、軸があることの大きな意味があります。自分に軸があるからこそ、境界線を引くことができる。適切な距離を保ちながら、相手の話に深く耳を傾けることができるのです。

聞くことと、のみ込まれないこと。この両立を可能にするのが、ガイド自身の軸にほかなりません。

2割話し、8割聞く。そのために必要なのは、知識・経験・そして個性を掛け合わせた、ガイド自身の軸です。軸のあるガイドは、どんなゲストとも信頼関係を築くことができ、一人ひとりに合わせた、その場限りのツアー体験になります。

同じツアーは一つとしてなく、すべてが価値のあるツアーになるのです。

「Knowledge」「Experience」「Personality」と書かれた3冊の本が机の上に積まれている
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