瀬戸内海に浮かぶ小さな島、直島。
もとは漁業で栄えた島でしたが、今では世界中からアートファンが訪れる「アートの島」として知られています。
私はこれまで2度訪れていますが、島で見かけるのはほとんどが海外からのお客様で、
日本人観光客とはあまりすれ違いませんでした。
なぜ、これほど多くの海外の方が直島に魅かれるのでしょうか。
その答えは、直島のアートが単なる展示物ではなく、
歴史・自然・自分自身という3つのものと向き合う体験として設計されていることにあります。
直島がアートの島になった経緯と、代表的なスポットを
「歴史を次世代に繋ぐ」「自然と一体になる」「自己と対話する」という3つの視点からご紹介します。
直島がアートの島になるまで

直島はもともと漁業で暮らしを立てる島でした。
ところが人口減少が進み、空き家や耕作放棄地が目立つようになります。
そこに、教育出版を手がける福武書店(現ベネッセコーポレーション)の創業者・福武哲彦氏が
「瀬戸内海の島に、世界中の子どもたちが集える場をつくりたい」という構想を持ち込みます。
当時の直島町長・三宅親連氏も「教育的な文化エリアを開発したい」という夢を描いており、
両者の思いが重なったところから、直島のアートプロジェクトは動き出しました。
1985年に直島と出会い、1989年に直島国際キャンプ場が開設され、
1992年7月には拠点となる宿泊型美術館「ベネッセハウス」が開館しています。
そこに建築家・安藤忠雄氏が加わり、集落に残る古い家屋や神社を壊すのではなく、
歴史そのものを作品として次の世代に引き継ぐという方向性が定まりました。
教育への思い、地域を取り戻したいという町の願い、歴史を引き継ぐ建築という3つが重なったところに、
直島のアートは生まれています。
歴史を次世代に繋ぐ、家と神社のアート

直島本村地区で1998年から始まった「家プロジェクト」は、
空き家になっていた古い民家や神社を、取り壊すのではなくアーティストの手で作品化する試みです。
現在は角屋・南寺・きんざ・護王神社・石橋・碁会所・はいしゃの7軒が公開されています。
集落に人が暮らしていた頃の時間と記憶を織り込みながら空間そのものを作品にするという方針は、
「歴史を次の世代に繋ぐ」ことを感じることができます。
角屋「Sea of Time ’98」

家プロジェクトの第一号となったのが、築およそ200年の家屋を漆喰・焼き板・本瓦で修復した「角屋」です。
宮島達男によるこの作品は、暗闇の中に125個のLEDデジタルカウンターが1から9までの数字を刻み続けるというもので、
ゼロの数字は表示されません。
1998年、5歳から95歳までの直島住民125人が参加した「タイムセッティング会」で、
それぞれが自分のカウンターの速さを決めました。
2018年には次の世代を交えて速さを設定し直す「タイムセッティング2018〜継承〜」も行われています。
ひとつの作品が20年かけて世代を超えて引き継がれていく、
その仕組み自体が「歴史を次世代に繋ぐ」というテーマをそのまま体現しています。
護王神社「Appropriate Proportion」

氏神を祀る護王神社を、写真家・杉本博司氏が手がけたのがこの作品です。
神明造の本殿と、その地下に設けられた石室が、ガラスの階段でつながっています。
杉本氏は、神社と古墳が同時に存在した時代があったのではないかという独自の関心から、
あえて石室をつくりました。
階段を降りて石室に入り、再び階段を上ると、視線の先には瀬戸内海の水平線が広がります。
古代の人々が石室に何を託したのか、その問いを今に手渡してくれる作品です。
自然と一体になる場所
直島の魅力は歴史だけではありません。風、水、光といった動くもの、
自然そのものを作品の一部として取り込んでいるスポットも数多くあります。
The Naoshima Plan 2019「水」

本村の旧家には、南から北へ続く「続き間」という間取りがあり、
建築家・三分一博志氏はこれを「まるでリレーのバトンを繋ぐように風をリレーしている」と表現しています。
彼が手がけたこの施設では、増築部分を取り除いて風本来の通り道を復元し、
井戸から汲み上げた伏流水を中庭の水盤に湛えています。
この一帯の地下には豊かな伏流水が流れており、かつて集落のすべての井戸がひとつの水脈でつながっていたといいます。
風と水は、暮らしの中で同時にリレーされてきたのです。
鑑賞は無料で、共通チケットも不要。
桟橋に腰かけて、動く素材を目でも肌でも感じることができます。
海外のお客様をご案内していると、日本の伝統家屋は室内と屋外の境界があいまいだと言われます。
西洋の建築が壁で内と外をはっきり分けるのに対し、
この本村の家々は風や水を通すことを前提に作られています。
その発想そのものが、直島の自然との付き合い方をよく表しています。
ヴァレーギャラリー

2022年に開館した、安藤忠雄による直島9つ目の建築です。
谷間の地形に沿うように建てられ、屋根のスリットから光や風が入る半屋外の展示室になっています。
ここに置かれた草間彌生の《ナルシスの庭》は、山の景観を映し込む鏡面のボールを池に浮かべた作品で、
1966年のヴェネツィア・ビエンナーレで発表されて以来、世界的に知られています。
屋内の展示と屋外の庭とのあいだに区切りがなく、
海や丘陵の緑と一体になった空間で作品を体験できます。
自己との対話、地中美術館

旅の締めくくりにふさわしいのが、2004年に開館した地中美術館です。
瀬戸内の美しい景観を損なわないよう、建物のほとんどが地下に埋め込まれています。
それでいて自然光がふんだんに差し込み、時間帯や季節によって作品や空間の表情が刻々と変わります。
館内には、クロード・モネ晩年の「睡蓮」連作5点が自然光だけで展示された部屋、
直径2.2mの球体と27体の金箔の木彫が置かれたウォルター・デ・マリアの空間、
光そのものを作品にするジェームズ・タレルの代表作3点があります。
下へ下へと階段を降りていくにつれて、周囲の音や情報が減っていき、
気づけば作品とふたりきりで向き合っている自分に気づきます。
歴史を辿り、自然を感じたあとに訪れるからこそ、この地中美術館の静けさが際立ちます。
アクセスと巡り方

直島へは、岡山県の宇野港、または香川県の高松港からフェリーで渡ります。
- 宇野港から:フェリー約20分(旅客船は約15分)。岡山駅から宇野駅までは電車で約50分
- 高松港から:フェリー約60分、高速艇なら約30分
島内はレンタサイクルでの移動が便利で、
本村地区の家プロジェクトからベネッセハウス・地中美術館周辺までを1日かけて回るのが定番のコースです。
家プロジェクトの共通チケットを使えば、角屋や護王神社などをまとめて鑑賞できます。
直島は、歴史・自然・自己という3つの旅
直島のアートは、ただ美しいものを眺めるための展示ではありません。
角屋や護王神社は歴史を次の世代へ繋ぐ営みそのものであり、
The Naoshima Plan 2019「水」やヴァレーギャラリーは風や水、光といった自然と一体になる体験を用意し、
地中美術館は自分自身との対話へと誘います。
海外の方が直島に惹かれる理由は、この3つがひとつの島の中で一続きの物語になっているからだと思います。
Kiyora Travelでは、奈良で日本という国のはじまりの歴史に触れたあと、
直島でこの現代アートと自然、そして自分自身に向き合う旅をご案内しています。
歴史のはじまりから現在のアートまでを一つの旅としてじっくり味わいたい方は、
ぜひKiyora Travelまでお問い合わせください。

